第5作 男はつらいよ 望郷篇 長山藍子

■データ
劇場公開日:1970年8月26日
観客動員数:72万7千人
料金:550円
上映時間:88分

■キャスト
車寅次郎:渥美清
さくら:倍賞千恵子
車竜造:森川信
車つね:三崎千恵子
諏訪博:前田吟

たこ社長:太宰久雄
登:秋野太作
源公:佐藤蛾次郎
御前様:笠智衆
三浦富子:杉山とく子
木村剛:井川比佐志
石田澄雄:松山省二
三浦節子:長山藍子(マドンナ)
満男:中村はやと
竜岡親分:木田三千雄
子分:谷村昌彦
旅館の女中:谷よしの

■ストーリー
寅次郎はおいちゃんが亡くなった夢をみた。
胸騒ぎでとらやに電話を入れるとおばちゃんが、冗談で「おいちゃんはやっと息をしてるだけ」と言ったのを寅次郎が真に受け、葬儀の手配などで「とらや」は大騒ぎになり、いつもの様にみんなと大喧嘩になり、怒って旅に出ようとする寅次郎をさくらがなだめて何とか「とらや」に留まる事となった。

そんななか、堅気になった登が札幌の政吉親分が危篤だと寅次郎に伝えに来た。
渡世の義理だとか何とか言う寅次郎にさくらがやくざ家業を辞めてまじめに働いて、と散々説教をしたが、最後は寅次郎にお金を貸してやり、そのお金で寅次郎は登を連れて札幌まで行き、老い先短い政吉親分に再会し、息子に会いたいと言う政吉親分の願いに寅次郎と登は奔走するが、その願いも虚しく政吉親分は亡くなってしまった。

そんなことで寅次郎はさくらの説教と政吉親分の死により、今までの自分の生き方を深く反省し、登にまじめに生きろとケンカしてまで宿から追い出し、再び柴又に帰ってきた。

すっかり気持ちを入れ換えた寅次郎は仕事探しをするが、うまくいかずに疲れた寅次郎は、江戸川に置いてある小船の中で昼寝をしていたところ、小船は江戸川の川下の方へ流れて行ってしまった。

しばらくして寅次郎からさくらの所に油揚げが送られてきた。あれから寅次郎は小船で浦安まで流され、 浦安の豆腐屋に住み込みで働いていたのである。
さくらが寅次郎を尋ねて浦安の豆腐屋に行くと、案の定、そこの豆腐屋の一人娘の節子(長山藍子)に心を奪われて居ついていたのである。

ある晩、節子が寅次郎の部屋にやってきて、「できればずっとこの店に居てもらえないかしら」と突然寅次郎に言った。これをプロポーズだと勘違いした寅次郎は、心浮き立ったが、結局は豆腐をよく買いに来る若い男(井川比佐志)が恋人で「これから親戚になる男」だった。

節子が結婚して家を出ると豆腐屋を継ぐ人間が いなくなるので、その事で二人は今まで結婚できなかったのである。そこに寅次郎が現れ、しかもずっと店に居てくれるとなれば この二人はすぐにでも結婚ができる事になる。
寅次郎にとっては何ともバツの悪い最悪の失恋となってしまったのである。

次の日、寅次郎は黙って豆腐屋を立ち去り、カバンを取りに「とらや」に戻り、涙ながらに再び商売の旅に出ることになった。

■感想
”寅さんシリーズ”の他のブログで下記のような内容が見受けられた。

この第5作をもって完結させるつもりで、テレビ版寅さんの出演者である長山藍子、井川比佐志、杉山とく子を総動員したが、あまりの人気ぶりに続けることになった

としているが、私の見解では全く逆であり、この作品にあるように”望郷篇”と言うような副題が付く様になり、また、冒頭のシーンにつなげるコントが入るようになったことで、いよいよロングシリーズの形を整える段階に入った様に思います。

因みに下記の動画はテレビ版の「男はつらいよ」の最終回です。
寅さんが奄美大島でハブに噛まれて死ぬ回想録が収められており、長山藍子扮する”さくら”が兄の死をなかなか受け入れられず、精神的に不安定になりますが、最後に”思い出”として寅さんがさくらに会いに来ることで、やっと兄の死という現実を受け入れる場面が描かれています。
悲しすぎます。涙で最後まで見るのがつらかったです。

さて、この第5作で寅さんの舎弟である登が第1作と同じく、「田舎に帰ってかたぎになれ!」と寅次郎にぶん殴られる場面がある。
この作品のテーマとしての一つに”まじめに働く”と言うのがあるが、すべてのシリーズに感じられるのは、寅次郎の気持ちとしてまじめに働きたいが、テキヤ家業の染み付いた体が受け付けない、といったものがあるように思う。
そんなことなど言い訳でしか無く情けない話だが、そこのところがつらいところなんだろう。何となく理解できるような気がする。

しかしながら、浦安の豆腐屋で油にまみれて働く姿を見ると惚れた女のそばなら何でもできると言うところが救いではある。
それも失恋となるのだが、最後の場面で「親戚になる人だ」と言われるが、これも第1作での御前様の言葉と同じで、同じシチュエーションを描いているのも面白い。

また、最後に節子がさくらさんのアパートに訪ねて来る場面はテレビ版のさくらさんと映画のさくらさんの会話で何となく面白みを感じる。

余談だが、第1作〜第4作に比べこの作品は観客動員数が一気に増加していることも注目に値することだと思います。